コーチング研修を選ぶときは、受講者の役職や研修の知名度だけでなく「コーチングをどの場面で使うか」に目を向けることが大切です。同じ傾聴や質問のスキルでも、日常の部下育成、1on1、新人のOJT、評価面談では求められる使い方が異なります。研修の成果は、受講者が職場でスキルを使えてはじめて生まれます。場面に合わない研修では、受講者が研修に満足しても、身に付けた内容を職場で使えないまま終わってしまいます。
この記事では、研修担当者が自社に合うコーチング研修を判断できるよう、場面と課題別の研修パターンとカリキュラム例をまとめました。選定時に起こりやすいミスマッチや、研修会社へ相談する前の準備にも触れています。
目次
自社に合うコーチング研修を選ぶ軸は、「どの場面でコーチングを使うか」と「受講者がどの段階にいるか」の2つです。傾聴や質問、承認といった基本スキルは共通でも、使う相手や目的が変われば研修で重点を置くべき内容が変わるためです。人気や評判だけで選んだ研修が、自社の課題に合うとは限りません。
代表的な4つの場面を比べると、上司や指導役に求められる関わり方の違いがはっきりします。
| 場面 | 主な相手 | コーチングの主な役割 | 研修で重視したい内容 |
|---|---|---|---|
| 日常の部下育成 | 一定の経験がある部下 | 目標達成までを継続的に支える | コーチングプロセス / 傾聴 / 承認 / タイプ別の関わり方 |
| 1on1 | 担当するすべての部下 | 部下が話したいテーマから考えを整理させる | 1on1の進め方 / 傾聴 / 承認 / 部下に合わせた対応 |
| OJT | 経験の浅い新人や若手 | 教えながら少しずつ考えさせる | ティーチングとコーチングの使い分け / 指示の出し方 |
| 評価面談 | 評価を受ける部下 | 評価に納得してもらい次の目標につなげる | 面談の流れ / 伝え方と聴き方の組み合わせ |
たとえばOJTの相手である新人は知識や経験が少なく、指導役が問いかけても答えられない場合が多くあります。この場合は、コーチングだけを扱う研修より、教える技術と引き出す技術を両方扱う研修のほうが現場で役立ちます。
場面が決まったら、次は受講者の段階を確認します。受講者に基本から身に付けさせたい場合は、進め方からスキルまで一通り扱う研修が合います。基本を知っている受講者の実践力を高めたい場合は、演習中心で難しい場面も扱う研修が向いています。段階が合わないと、基本を知っている受講者には内容が物足りず、コーチングに初めて触れる受講者には演習が難しく感じられます。受講者のこれまでの研修経験や、職場でコーチングを使っているかを事前に把握しておきましょう。
「使う場面」と「受講者の段階」の2つの軸で整理すると、向いている研修は5つのパターンに分けられます。自社の状況に最も近い行から確認してみてください。
| 使う場面 | 受講者の段階 | よくある課題 | 研修例 |
|---|---|---|---|
| 日常の部下育成 | 基本から身に付けさせたい | 部下が指示待ちで上司ごとに育成の仕方がばらばら | コーチング研修 |
| 1on1 | 基本から身に付けさせたい | 1on1を導入したが雑談や業務報告で終わっている | 1on1ミーティング力強化研修 |
| OJT | 基本から身に付けさせたい | 新人への指導が教えっぱなしか任せっぱなしになっている | OJT研修 ティーチング・コーチング強化編 |
| 評価面談 | 基本から身に付けさせたい | 評価面談が評価結果の通知だけで終わっている | 評価者面談研修 |
| 日常の部下育成 / 1on1 | 基本を踏まえて実践力を高めたい | 目標設定の支援や前向きでない部下への対応に苦戦している | コーチング研修 実践編 |
早見表の5つのパターンについて、向いている理由とカリキュラムの例を見ていきます。紹介するカリキュラムは、リスキルで実施している研修の例です。カリキュラムを確認するときは、「どの章でどんな演習をするか」まで見ると、自社に合うかを判断できます。
上司ごとに育成の仕方がばらつく原因の1つは、社内に育成の共通の型がないことです。コーチングの進め方からスキル、ロールプレイまでを1日で扱う研修なら、受講者全員が同じ型を身に付けられます。
対象者
管理職 / リーダー / 部下を持つ先輩社員
研修時間
約6時間
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | コーチングの理解 | 【オープニングワーク】現状の課題把握 / コーチングにおける上司の役割 / コーチングの流れ |
| 2 | コーチングプロセス | 目標と現状の明確化 / 行動計画の作成 / フォローアップ / 【ワーク】自身の課題の洗い出し |
| 3 | コーチングスキル(傾聴) | かかわり行動 / 基本的傾聴技法 / 目的を持った質問 / 【ロールプレイ】傾聴 |
| 4 | コーチングスキル(承認) | 承認の重要性 / 【ワーク】3つの承認 / 【ケースワーク】褒め方 |
| 5 | 部下に合わせた対応方法 | タイプ別の対応方法 / 対応時の注意点 / 【ワーク】自チームについて考える |
| 6 | コーチング実践 | 【ロールプレイ】コーチングの実践 / 研修の振り返り |
すべての章にワークやロールプレイがあり、第5章では自チームのメンバーを題材にするため、受講者が研修の内容を職場に置き換えやすい構成です。
1on1が雑談や業務報告だけで終わる原因の1つは、1on1の進め方の型がないまま上司に任されていることです。1on1は評価面談と違い、部下が話したいテーマから始めるのが基本です。そのため、1on1の流れとコーチングのスキルをセットで扱う研修が向いています。
対象者
1on1を担当する管理職 / マネージャー
研修時間
約6時間
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | 1on1ミーティングの全体像 | 現状の振り返り / テーマ設定から行動計画までの1on1の流れ / 【ワーク】進め方の改善点を洗い出す |
| 2 | 1on1ミーティングのためのコーチングスキル | 主役は部下という考え方 / 傾聴技法 / 目的を持った質問 / 【ロールプレイ】傾聴 |
| 3 | 承認する | 3つの承認 / 行動を褒める / リフレーミング / 【ケースワーク】事例に合わせた褒め方 |
| 4 | 部下に合わせた対応方法 | 4タイプ別の対応方法 / 対応時の注意点 / 【ワーク】自チームについて考える |
| 5 | 実践 | 【ロールプレイ】1on1の実践 / 研修の振り返り |
受講者は部下にテーマを決めてもらうところから行動計画までの流れを押さえ、最後に1on1そのもののロールプレイを行います。「何を話せばよいかわからない」という上司の迷いを減らせる構成です。
OJT担当者の役割は、新人に仕事を教えるだけでなく、自分で考えて動けるように育てることです。そのため、まず教え、力がついたら引き出すという切り替えが求められます。コーチングだけでなく、ティーチングも扱う研修を選ぶと、OJT担当者の役割全体をカバーできます。
対象者
OJT担当者 / これからOJT担当者になる方
研修時間
約6時間
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | OJT担当者の役割理解 | 現在の課題確認 / OJTのメリットとポイント / OJT担当者の役割 / 身に付けたいスキル |
| 2 | ティーチング | 心ではなく行動を見る / 指示の出し方5つのポイント / チェックリスト化 / 【ワーク】後輩に指示をする |
| 3 | 実行中の適切なティーチング方法 | 定点観測 / ToDoリストによる業務管理 / WBS(作業を細かく分けた計画表)によるプロジェクト管理 |
| 4 | コーチング | 傾聴の基本姿勢 / 基本的傾聴技法 / 視点を広げる質問と具体化する質問 / 【ロールプレイ】傾聴 |
| 5 | コーチングスキル(承認・個別対応) | 3つの承認 / 行動を褒める / タイプ別の対応方法 / 【ワーク】個別対応を考える |
指示を出したあとの進捗確認まで扱う点が特徴です。受講者は、教える・見守る・考えさせるの3場面を1日で通して確認できます。
評価結果を一方的に伝えるだけでは、部下は納得できないまま次の目標に向かうことになります。評価面談では評価を伝えたうえで考えを引き出す必要があるため、面談の流れとコーチングを組み合わせた研修が向いています。
対象者
管理職 / 部下を持つマネージャー / 人材育成担当者
研修時間
約4時間
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | 組織における評価 | 人事制度の全体像 / 評価者に期待される役割と基本能力 / 評価の流れと対象 |
| 2 | 面談の目的と心構え | 面談の種類と目的 / 面談時の心構え / 事前準備から課題解決までの面談の流れ |
| 3 | 面談時のコミュニケーションスキル | フィードバック時のコーチング / 傾聴技法 / 目的を持った質問 / 陥りがちな聴き方 |
| 4 | 評価面談を実施する | 【ワーク】評価面談の実践 / 気づきと行動の落とし込み |
コーチングのスキルを評価面談の流れの中でどう使うかという形で扱う点が特徴です。最後に評価面談のロールプレイを行い、受講者は研修で扱ったスキルを実際に使います。
上司がコーチングの基本を知っていても、職場で使いこなせるとは限りません。職場には、目標があいまいな部下や前向きな気持ちになれない部下もいるためです。こうした場面に対応できないと、上司は「やはりコーチングは使えない」と感じ、指示中心の元のやり方に戻ってしまいます。
書籍や過去の研修、日々の1on1などでコーチングに触れている人には、短時間で演習を重ねられる研修が向いています。基礎研修のフォローアップとして組み合わせる使い方もできます。
対象者
部下を持つ中堅社員 / 管理職
研修時間
約3時間
| 章 | 学習テーマ | 主な内容 |
|---|---|---|
| 1 | コーチングの基本確認 | 育成におけるコーチングの位置づけ / 上司の役割の再認識 / GROWモデルの流れ / 【ワーク】課題の共有 |
| 2 | 実践演習1 | 【演習】目標設定の支援 / 【演習】行動計画の作成支援 |
| 3 | 実践演習2 | 難しい場面でのコーチングの原則 / 【演習】ネガティブな感情への対応 / 研修の振り返り |
受講者は3時間で3つの演習を行い、最後はネガティブな感情を持つ部下への対応を練習します。3章のうち2章が演習中心の構成のため、限られた時間で実践の量を確保したい企業に合っています。
時間を確保しにくい場合は半日で基本を押さえる研修、管理職の役割とあわせて扱いたい場合は管理職向けの研修が候補になります。メンバー同士で問いかけ合う関係をつくりたい場合は、相互コーチングの研修も選択肢の1つです。
評判の良い研修でも、自社の状況とずれていれば十分な効果は出ません。研修を決める前に、次の4つのミスマッチが起きていないかを確認しておきましょう。
課題がコーチング以前にある
普段の会話が少ない職場で質問技法だけ入れると、質問攻めと受け取られかねない。先にコミュニケーションの土台を整える。
受講者の経験がばらばら
新任とベテランを一緒にすると、難易度が合わない受講者が出る。対象ごとか基礎と実践の2段階に分ける。
時間を削りすぎる
時間を短くすると演習も削られる。講義を絞って演習を残せるか確認する。
研修と職場の場面がずれている
評価面談で使いたいのに一般的な育成ケースだけでは、職場に置き換えにくいなど。ケースを自社向けに変えられるか確認する。
特に見落としやすいのが1つ目です。信頼関係がないまま質問の技法だけを取り入れても、部下が本音を話す場にはなりません。報連相や雑談が少ない状況であれば、コミュニケーション研修で関係を整えてからコーチング研修へ進む順番で進めましょう。
2つ目と3つ目は、研修担当者が研修の設計段階で防げます。受講者の構成と確保できる時間が決まった時点で、研修会社に「この条件で演習の時間をどれだけ取れるか」を確認しておきましょう。
候補を2〜3つに絞ったら、演習の中身と実施の条件を比べます。確認したいポイントは次のとおりです。
| 確認ポイント | 見るところ | 理由 |
|---|---|---|
| 演習の比率 | カリキュラム内のワークやロールプレイの数 | 講義だけでは自分の話し方の癖に気づきにくい |
| 演習の題材 | 自分の部下やチームを題材にする演習があるか | 研修後に使う場面を具体的に描ける |
| 研修形式 | 一斉に受けさせるか / 年に数名ずつか | 人数規模によって向き不向きがある |
| 実施方法 | オンライン / ハイブリッドへの対応 / 少人数でのロールプレイ | 拠点が分かれていても実践の時間を確保できる |
| 事前・事後課題 | 課題の有無と量 | 忙しい管理職には負担が大きい |
形式ごとの特徴は、次の記事で比較しています。
研修会社に相談する前に、自社の状況を整理しておくことが大切です。要望を具体的に伝えられます。1.目的、2.受講者、3.実施条件の順に考えると、研修を選ぶ筋道がはっきりします。
1.目的・課題
2.受講者
3.実施条件
1.の目的が定まると、扱うべきテーマが見えてきます。そのうえで2.の受講者に合わせてカリキュラムの難易度や重点を絞り込み、最後に3.の実施条件で一社研修・公開講座などの形式を決めると、内容と条件の両面で無理のない研修を選びやすくなります。
おすすめのコーチング研修は企業ごとに異なります。選ぶときの軸は「使う場面」と「受講者の段階」の2つです。日常の部下育成、1on1、OJT、評価面談など、コーチングを使う場面を先に決めると、選ぶべき研修の姿が見えてきます。自社の課題を整理したうえで、次の流れで選んでみてください。
迷ったときは、「誰に」「どの場面で」「何ができるようになってほしいか」を1文で書き出してみましょう。その1文が、研修を選ぶ基準になります。
リスキル事務局が記事の執筆・監修をしています。人材育成にまつわるお役立ち情報を分かりやすく解説します。
■社員研修のリスキルとは?
社員研修のリスキルは、一人でも多くの人に人材育成を届けるために、利便性の高い研修サービスを提供しています。検索をすれば、一社で実施する研修、日程が決まっている参加型公開講座、eラーニング動画講座などをすぐに見つけ、簡単に申込みや見積書を作成することができます。
■プロフィール
会社名:株式会社リスキル
(「リスキル」は株式会社リスキルの登録商標です。)
設立:2022年5月2日
上場市場:東京証券取引所グロース市場
■研修実績
・利用社数は年間3900社以上
・年間受講者数 前年比157%
・プロフェッショナルの講師陣300名以上在籍