「部下がなかなか自分で考えて動いてくれない」「指示があれば動くのに、指示がないと止まってしまう」。部下や後輩の育成に関わっていると、こうした悩みに直面することもあるでしょう。そこで注目されているのがコーチングです。コーチングとは、答えを教えるのではなく、対話と問いかけによって相手の目標達成を支える関わり方のことです。
この記事では、コーチングの意味や目的、ティーチングとの違い、基本の進め方と代表的なスキル、職場で活かせる場面までを順に見ていきます。
目次
コーチングとは、対話によって相手の目標達成を支援することです。問いかけを通じて相手の内面から答えを引き出し、自ら行動できるようにサポートします。
目標を達成するには、必要なスキルや知識、考え方を備えて行動することが欠かせません。コーチングはその過程を対話で支えます。ポイントは「教える」のではなく「問いかける」ことにあります。上司が答えを示すのではなく、質問によって部下の気づきを促し、部下自身が考えて行動を選べるようにしていきます。
コーチングの目的は、目の前の目標を達成することだけではありません。目標の先にある目的に向けて、成果を出し続けられる人材に成長してもらうことも大切な目的です。毎月の営業目標の達成を積み重ね、1年後にはリーダーとしてメンバーを考えながら動けるようになる、といった成長のイメージです。
Before
上司の指示を待ち、言われたことをこなす状態
After
自ら考えて行動し、成果を出し続ける状態
コーチングでは、目標を設定し、計画を立て、行動するのはすべて相手自身です。上司が主導権を握るのではなく、あくまでも支援者として関わるスタンスが求められます。上下関係では教える要素が強くなりがちなので、部下の目標を同じ目線で横並びになって見ながら対話することが大切です。
コーチングにおける上司の役割は、次の2つに整理できます。
適切な質問を与える専門家
答えを与えるのではなく、質問で部下の視点を変え、解決すべきことを明確にする
成果を出し続けるための能力開発
直近の目標達成で成功体験を積み重ね、より長期的な目標達成へと導く
コーチングと混同されやすいのが、ティーチングやカウンセリング、コンサルティングです。これらの違いは、「問いかけるか・教えるか」と「解決を目指すか・問題に向き合うか」の2つの軸で整理するとわかりやすくなります。
| 種類 | 関わり方 | 焦点 |
|---|---|---|
| コーチング | 問いかける | 解決 |
| ティーチング | 教える | 解決 |
| カウンセリング | 問いかける | 問題 |
| コンサルティング | 教える | 問題 |
参考:『コーチング・マネジメント』(伊藤守 / ディスカヴァー・トゥエンティワン)
コーチングは「問い」によって「解決」を目指すものです。カウンセリングも問いかけを用いますが、焦点は問題そのものに向きます。
ティーチングとは、対話ではなく一方通行で知識やスキルを教える指導のことです。コーチングは相手の自発的な成長や目標達成を促すサポートであり、答えがどこにあるかという点で大きく異なります。
| 項目 | コーチング | ティーチング |
|---|---|---|
| 関わり方 | 問いかけて考えを引き出す | 知識やスキルを教える |
| 答えの出どころ | 相手の中 | 教える側 |
| コミュニケーション | 双方向の対話 | 一方通行の指導 |
| 期待できること | 主体性 / 自発的な行動 / 長期的な成長 | 必要な知識やスキルの習得 |
コーチングとティーチングは、どちらが優れているというものではありません。人材育成には両方をバランスよく活用していく必要があります。主体性が求められる仕事を柔軟に進めてもらうには、コーチングが欠かせません。
| 手法 | 向いている場面 |
|---|---|
| ティーチング | クレーム対応など切迫した状況 / まったく知らない分野の仕事を初めて教えるとき |
| コーチング | 「知っている」から「行動している」へ変化を促したいとき / 選択肢を整理し決断を促したいとき / 長期的な成長を促したいとき |
コーチングは、目標の明確化から始まる5つのプロセスで進めていきます。上司が強く押し付けるのではなく、部下が自発的に進められるよう促すことがポイントです。
| プロセス | 内容 |
|---|---|
| ①目標の明確化 | 目指す目標をはっきりさせる |
| ②現状の明確化 | 今の状態を客観的に把握する |
| ③行動の把握と自身の評価 | 今の行動を振り返る |
| ④行動計画の作成 | やるべきことを計画にする |
| ⑤フォローアップ | 実行を見守り計画を見直す |
まずは部下に「あるべき姿」を考えてもらいます。言われて仕方なく立てた目標や、理想が高すぎる目標では意欲が続きません。上司は、本人が「やってみたい」と思える目標になるよう支援します。
人は自分の現状を悲観的にも楽観的にも見てしまいがちです。問いかけを通じて、現状を客観的に・正確に把握してもらうことが大切です。
目標と現状のギャップを埋めるのは行動です。今の行動を振り返って自己評価してもらいます。このとき、他責にならないよう支援することも上司の役割です。
取り組むことを書き出し、優先順位を付けて計画にしてもらいます。実践するのはあくまでも部下自身なので、計画づくりも本人が主体です。
実行の様子を見ながら、計画の修正と改善を支援します。コーチングは1回で終わることは少なく、プロセスを繰り返すことで目標達成に近づいていくものです。
一般に、「傾聴」「質問」「承認」はコーチングの三大スキルと言われます。さらに、相手に合わせて関わる「個別対応」も欠かせません。
傾聴
耳を傾けて熱心に聴き、信頼関係を築く
質問
目的を持って問いかけ、考えを引き出す
承認
存在や行動、結果を認めて伝える
個別対応
一人ひとりの特性に合わせて関わる
傾聴とは、耳を傾けて熱心に聴くことです。傾聴によって相手との信頼関係が築かれ、コーチングの土台になります。相手を否定せずに受け止め、身体を向けて最後まで話を聴く姿勢が基本です。話をきちんと聴いてもらえると感じることで、相手は本音を話しやすくなります。
質問は大きく2種類に分かれ、場面や相手の状況に応じて使い分けることが大切です。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| クローズドクエスチョン | Yes / Noで答えられる質問。話の入りに向く |
| オープンクエスチョン | 自由に答えられる質問。考えを引き出すのに向く |
答えやすいクローズドクエスチョンで会話をほぐし、オープンクエスチョンで考えを深めていくのが基本の流れです。
承認とは、相手の存在を認めることです。人は自分の成長や変化になかなか気づけないため、上司から日々の変化や成長を伝えることで部下の意識を高められます。挨拶や声かけといった小さなことも承認の1つです。認められていると感じることで、部下は安心して挑戦できるようになります。
個別対応とは、部下一人ひとりの特徴や性格を理解し、それぞれに合わせて関わることです。その手がかりになるのが、コミュニケーションの傾向から人を4つに分ける「タイプ分け」です。
| タイプ | 特徴 | 関わり方のポイント |
|---|---|---|
| コントローラー | 行動的で結果を重視する | 結論からストレートに伝える |
| アナライザー | 分析や計画を大切にする | 理由や背景を丁寧に伝える |
| プロモーター | 新しいことや楽しさを好む | 成果が出たらすぐに褒める |
| サポーター | 人との協力を大切にする | 感謝や貢献を言葉で伝える |
参考:『図解 コーチング流タイプ分けを知ってアプローチするとうまくいく』(鈴木義幸 / ディスカヴァー・トゥエンティワン)
コーチングは特別な場だけのものではありません。1on1ミーティングや面談、OJT、日々の指導やフィードバックなど、部下や後輩と関わるさまざまな場面で活かせます。
OJTはティーチングが中心になりがちですが、仕事を覚えた段階からコーチングを取り入れると、自分で考えて動く力が育ちます。段階に応じてティーチングとコーチングを組み合わせるのがポイントです。
1on1ミーティングや面談は、コーチングを実践しやすい代表的な場です。クローズドクエスチョンで会話を弾ませてから、オープンクエスチョンで話を深めていく流れがよく使われます。
コーチングで関わると、メンバーの得意分野を伸ばし苦手分野をサポートできます。対話が活発になることで職場の心理的安全性が高まり、誰もが安心して意見を言える雰囲気づくりにもつながります。
コーチングのスキルは、知っていることと実際にできていることが別物です。自分の聴き方や問いかけの癖に気づき、意識して修正していくことが上達の近道になります。
忙しさや経験へのこだわりから、無意識に聴けなくなっていることがあります。
傾聴を妨げる聴き方になっていないか
質問は多ければ良いというものではありません。「何のための質問か」を自覚したうえで問いかけることが大切です。
相手を誘導する質問・否定や批判につながる質問・自分の興味を満たすための質問は控えましょう。情報を集めたいあまり、質問攻めにしないことも大切です。
タイプ分けは個別対応のための1つの方法にすぎず、誰もがどれか1つのタイプにぴったり当てはまるわけではありません。「同じタイプだから同じ対応をする」のではなく、仮説として持ちつつ、実際の反応を見て随時確認していくことが大切です。
コーチングスキルは、基本を押さえ、日常で試し、振り返ることを繰り返して身に付いていきます。
目的や上司の役割、5つのプロセス、三大スキルといった基本が出発点です。奇抜なテクニックではなく、スタンダードな考え方を土台にすることで、場面が変わってもぶれずに関われます。
最初から完璧な面談を目指す必要はありません。上司から挨拶をする、名前を呼ぶ、行動を見て「頑張っているね」と声をかけるなど、無理のない範囲の小さな関わりから始めて習慣にすることが大切です。
コーチング研修では、1on1ミーティングや面談など実際の場面を想定したロールプレイを通じて練習を重ねられます。独学や本だけでは気づけない自分の癖や改善点を洗い出せるのも、研修ならではの利点です。
コーチングとは、答えを教えるのではなく、対話と問いかけによって相手の目標達成を支援する関わり方です。主役はあくまでも相手であり、上司は適切な質問を与える支援者として関わります。ティーチングと使い分けながら、日々の関わりの中で少しずつ取り入れていくことが、自ら考えて動く人材の育成につながります。
リスキル事務局が記事の執筆・監修をしています。人材育成にまつわるお役立ち情報を分かりやすく解説します。
■社員研修のリスキルとは?
社員研修のリスキルは、一人でも多くの人に人材育成を届けるために、利便性の高い研修サービスを提供しています。検索をすれば、一社で実施する研修、日程が決まっている参加型公開講座、eラーニング動画講座などをすぐに見つけ、簡単に申込みや見積書を作成することができます。
■プロフィール
会社名:株式会社リスキル
(「リスキル」は株式会社リスキルの登録商標です。)
設立:2022年5月2日
上場市場:東京証券取引所グロース市場
■研修実績
・利用社数は年間3900社以上
・年間受講者数 前年比157%
・プロフェッショナルの講師陣300名以上在籍