「従業員のメンタル不調を防ぎたいが、何から手をつければよいかわからない」と悩む研修担当者もいるでしょう。有効な手段の一つがメンタルヘルス研修です。メンタルヘルス研修とは、心の健康を保つための知識や対処法を従業員に身に付ける教育のことです。
この記事では、メンタルヘルス研修の定義や対象者、セルフケア研修・ラインケア研修といった種類と内容、実施方法、効果を高めるポイントまでを順に見ていきます。
目次
メンタルヘルス研修とは、従業員が心の健康を保ち、不調を予防・早期発見するための知識とスキルを身に付ける研修です。対象は従業員個人だけではありません。管理職や人事担当者も含め、職場全体でメンタルヘルスを支える仕組みをつくることも大切な役割です。
メンタルヘルス研修の土台は、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」です。一般に「メンタルヘルス指針」と呼ばれ、職場のメンタルヘルスケアを4つのケアで進めることが示されています。
| ケアの種類 | 担い手 | 主な内容 |
|---|---|---|
| セルフケア | 従業員本人 | ストレスへの気づき / 自分での対処 |
| ラインによるケア | 管理監督者 | 部下の変化への気づき / 相談対応 / 職場環境の改善 |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医 / 保健師 / 人事労務担当者など | 体制づくり / 専門的な支援 |
| 事業場外資源によるケア | 外部の医療機関 / 相談機関など | 社外の専門家による支援 |
指針では、4つのケアが適切に行われるよう、事業者は教育研修や情報提供を行うよう努めるものとされています。メンタルヘルス研修は、4つのケアを職場で実際に動かすための教育といえます。
メンタルヘルス研修が重視される背景には、次の4つの変化があります。
労災件数が過去最多
令和7年度(2025年度)の精神障害の労災請求は4,958件、労災と認定された件数は1,082件で、いずれも過去最多
ハラスメントが主な原因
労災と認定された原因の出来事では、上司などからのパワハラが最も多い
ストレスチェックの義務化拡大
2028年4月1日から50人未満の事業場でも実施が義務になる
離職や生産性への影響
不調が深刻になると、本人だけでなくチームの負担増や人材の流出にもつながる
ストレスチェックとは、従業員のストレス状態を調べる年1回の検査のことです。3つ目の変化により、小規模な事業場を持つ多くの企業も対象になります。ただし、ストレスチェックは実施するだけでは職場の改善につながりません。結果を活かせる知識を社内に広げる手段として、研修の重要性が高まっています。
メンタルヘルス研修の目的は、不調の予防から職場復帰の支援まで、段階ごとに適切な対応ができる状態をつくることです。メンタルヘルス対策は、一般に次の3段階で整理されます。
| 段階 | 目的 | 研修で目指す状態 |
|---|---|---|
| 一次予防 | 不調を未然に防ぐ | ストレスに気づき、早めに対処できる |
| 二次予防 | 不調を早期に発見し対応する | 本人や周囲の変化に気づき、相談につなげられる |
| 三次予防 | 職場復帰と再発防止を支える | 復帰する人を無理なく受け入れられる |
研修が特に力を発揮するのは一次予防と二次予防です。不調は早く対処するほど、本人の負担も職場への影響も小さく済むからです。
Before
不調が深刻になってから周囲が気づき、休職で初めて対応する
After
本人や周囲が早めに変化に気づき、相談や支援につなげられる
メンタルヘルス研修は、すべての従業員が対象です。実施の仕方には、全社員でまとめて受講するパターンと、立場ごとに分けて受講するパターンがあります。
| 実施パターン | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 全社員で受講する | 役職を問わず同じ内容を受講 / 職場全体で共通の理解をつくれる | 初めて研修を導入する / 相談しやすい雰囲気をつくりたい |
| 立場ごとに分けて受講する | 役割に合わせて内容を変えられる / 実践的な対応まで扱える | 管理職の対応力を高めたい / 課題がはっきりしている |
全社員で受講する場合は、ストレスの基礎知識やセルフケア、相談窓口の案内など、全員に共通する内容が中心になります。上司も同じ内容を受けていれば、部下は「相談してもよい」と感じやすくなります。一方で、部下への対応など管理職ならではの内容までは扱いきれません。そのため、全社員でセルフケアの基礎をそろえたうえで、管理職にはラインケア研修を追加する組み合わせも効果的です。
立場ごとに分けて受講する場合の対象者と役割は次のとおりです。
| 対象者 | 求められる役割 | 主な研修 |
|---|---|---|
| 一般社員 / 新入社員 | 自分のストレスに気づき対処する | セルフケア研修 |
| 管理職 / 管理監督者 | 部下の変化に気づき適切に対応する | ラインケア研修 |
| 相談窓口担当者 | 相談を受け止め支援体制を運用する | 相談窓口担当者向け研修 |
対象者ごとに、研修を実施しやすいタイミングも押さえておきましょう。
メンタルヘルス研修は、対象者の役割に合わせていくつかの種類に分かれます。中心となるのはセルフケア研修とラインケア研修です。
| 種類 | 主な対象 | 目的 |
|---|---|---|
| セルフケア研修 | 全従業員 | 自分のストレスに気づき対処する |
| ラインケア研修 | 管理職 | 部下の不調に気づき適切に対応する |
| 相談窓口担当者向け研修 | 相談窓口担当者 | 相談を受け止め組織として支える |
| テーマ特化型の研修 | 課題に応じて設定 | 特定の課題に対処する |
セルフケア研修は、従業員が自分の心の健康を自分で守れるようにする研修です。目指すのは、職場や社外で感じるストレスを自分で上手くコントロールできる状態です。
対象者
新入社員を含む全従業員
時間の目安
1.5〜3時間程度
セルフケア研修で扱う主な内容
研修で扱う手法をすべて実践する必要はありません。自分に合った方法を見つけ、心の健康を保つ意識を持つことが大切です。
ラインケア研修は、管理職が部下のメンタルヘルスを支えるための研修です。内容は、不調の予防から職場復帰の支援までの段階に沿って組み立てられるのが一般的です。
対象者
管理職
時間の目安
3〜6時間程度
| 段階 | 研修で扱う主な内容 |
|---|---|
| 一次予防 | ストレスの理解 / 職場環境の改善方法 |
| 二次予防 | 部下の変化に早く気づく方法 / 変化に気づいたときの声のかけ方や話の聴き方 |
| 三次予防 | 休職者への対応 / 復職までのプロセスと上司としての関わり方 |
ラインケアで重視されるのが、日頃のコミュニケーションです。部下の変化に気づくには、普段の様子を把握していることが前提になるからです。そのうえで、変化に「気づく」、声をかけて話を「聴く」、必要に応じて専門機関に「つなぐ」という対応を身につけます。
相談窓口担当者向け研修は、社内で相談を受ける担当者が、不調を抱える従業員を適切に支えるための研修です。窓口があっても対応が不十分なら、従業員は安心して頼れません。セルフケアとラインケアを機能させるには、相談を受け止める側の備えも欠かせないのです。
相談窓口担当者向け研修で扱う主な内容
自社の課題がはっきりしている場合は、テーマ特化型の研修も選択肢になります。
| テーマ | 主な内容 |
|---|---|
| ストレス&アンガーマネジメント | ストレスとの付き合い方 / 怒りの感情のコントロール方法 |
| レジリエンス | 失敗や不安への対処法 / 困難から立ち直る力 |
| メンタルタフネス | ストレス耐性や感情コントロールの強化 / 思考の柔軟性 |
| マインドフルネス | 自身の思考や感情の理解 / マインドフルな状態をつくる手法の習慣化 |
| 睡眠改善 | 睡眠の役割の理解 / 質の高い睡眠のための改善ポイント |
| ストレスチェック活用 | 実施結果の分析 / 職場環境の改善への活用 |
| 健康経営 | 健康経営の基本と進め方 / 優良企業の事例 |
また、メンタルヘルス研修は、ハラスメント防止や部下育成など、ほかのテーマと組み合わせて実施することもできます。メンタル不調の原因になりやすいハラスメントや、日頃の部下との関わり方もあわせて見直せるため、不調の予防につなげやすくなります。
メンタルヘルス研修の実施方法は、目的と対象者に合わせて選ぶことが大切です。知識を広く届けたいのか、対話を通じて実践力を高めたいのかなどで、適した形式が変わります。
代表的な実施形式は、一社研修・公開講座・eラーニング動画講座の3つです。形式によって特徴や費用が大きく異なります。
| 形式 | 特徴 | 費用相場 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 一社研修 | ・自社の従業員だけを対象に実施 ・内容や時間を調整しやすい |
1日20万〜50万円程度 | ・まとまった人数で受講させたい ・自社の課題に合わせたい |
| 公開講座 | ・日程が決まった講座に複数企業の参加者が集まる ・1名から申し込める |
1人2万〜4万円程度 | ・受講者が数名程度 ・まずは試験的に受講させたい |
| eラーニング動画講座 | ・動画を視聴して受講 ・時間や場所を選ばない |
1人1,000〜5,000円程度 | ・全社員など対象者が多い ・受講時間を合わせにくい |
費用は研修時間や人数などによって変わるため、あくまで目安として捉えましょう。自社の課題に合わせて、まとまった人数で実施したい場合は一社研修がおすすめです。受講者が数名程度なら公開講座、全社員など対象者が多い場合はeラーニング動画講座が向いています。
講師は、社内の産業医や保健師が務める場合と、外部の専門講師に依頼する場合があります。
| 講師 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 社内講師 | ・自社の実情に沿った話ができる ・費用を抑えやすい |
・準備の負担が大きい ・受講者が本音を話しにくい場合がある |
| 外部講師 | ・専門知識と研修経験が豊富 ・第三者として話せる |
・自社の事情を事前に共有する必要がある |
メンタルヘルスは身近でありながら話しにくいテーマです。そのため、社外の第三者のほうが受講者の抵抗感を下げやすい面があります。外部講師に依頼する際は、自社の課題やストレスチェックの傾向を事前に伝えておきましょう。
メンタルヘルス研修は、一度実施して終わりにせず、職場の仕組みと結びつけることで効果が高まります。身につけた知識も、使う場面がなければ定着しにくいからです。主なポイントは下記の通りです。
目的を明確にして共有する
何のために実施するのかを先に決め、研修の冒頭で受講者にも伝える
役割に合った内容にする
一般社員はセルフケア、管理職はラインケアを中心に内容を組み立てる
ストレスチェックと連動させる
部署ごとの集計結果でストレスが高い部署があれば、その部署の管理職から優先して受講させる
定期的に繰り返す
異動や昇格で対象者は入れ替わるため、年1回など時期を決めて続ける
相談先を整えておく
研修の中で社内外の相談窓口を案内し、実際に相談できる状態をつくる
あわせて注意したいのが、受講者のプライバシーへの配慮です。メンタルヘルスは、個人の体験や健康状態に触れやすいテーマです。研修の中で自身の不調経験などを話すことを強制せず、受講者が安心して参加できる場づくりを心がけましょう。
メンタルヘルス研修は、従業員が心の不調を防ぎ、早めに気づいて対処できるようにするための研修です。労災件数の増加やストレスチェックの義務化拡大を背景に、職場全体で心の健康を支える仕組みづくりが求められています。一般社員にはセルフケア研修、管理職にはラインケア研修というように、立場に合った内容を選ぶことが基本です。
研修は実施して終わりではありません。ストレスチェックの結果や相談体制と結びつけ、定期的に続けることで効果が高まります。まずは自社のどの立場の従業員にどのような課題があるのかを整理するところから始めてみてください。
リスキル事務局が記事の執筆・監修をしています。人材育成にまつわるお役立ち情報を分かりやすく解説します。
■社員研修のリスキルとは?
社員研修のリスキルは、一人でも多くの人に人材育成を届けるために、利便性の高い研修サービスを提供しています。検索をすれば、一社で実施する研修、日程が決まっている参加型公開講座、eラーニング動画講座などをすぐに見つけ、簡単に申込みや見積書を作成することができます。
■プロフィール
会社名:株式会社リスキル
(「リスキル」は株式会社リスキルの登録商標です。)
設立:2022年5月2日
上場市場:東京証券取引所グロース市場
■研修実績
・利用社数は年間3900社以上
・年間受講者数 前年比157%
・プロフェッショナルの講師陣300名以上在籍