企業側が管理職に求める役割の代表的なものが、人材育成やチーム作りだ。
これらの基盤にはチームメンバーである「人」が存在し、相手との適切なコミュニケーションを重ねることが重要だ。
本記事では、管理職に習得してもらいたい部下とのコミュニケーションのコツを解説する。「部下との話が続かない」「声がけが難しい」という方はぜひご覧いただきたい。
目次
管理職やマネージャーに求められる役割は多くある。その中でもコミュニケーションスキルは全ての基盤となるものだ。
マネジメントの現場では、相手の習熟度やその時の状況によって、求められる言葉や接し方が異なる。常に画一的な対応を続けていては、部下との信頼関係に綻びが生じたり、重要な情報の欠落を招いたりするリスクがある。
場面や相手の状態を的確に読み解き、対話の手法を柔軟に切り替える「適応力」こそが、現代のリーダーに求められる能力の一つだといえるだろう。
本記事内では、以下の場面でのコミュニケーション方法を解説する。
まずは、普段のコミュニケーションだ。上司側から取ることで、以下の効果が期待できる。
日々、上司から挨拶をしたり話しかけたりする職場であれば、部下からも相談や声をかけやすい雰囲気になる。部下から適切に声をかけることももちろん必要だが、話しやすい雰囲気づくりは上司をはじめマネジメントする立場が整備しておくことが望ましい(部下が雰囲気作りを行うこと現実的に難しいため)
「部下がなかなか報告にこない」「相談をもっとはやくしてほしかった」と思うことが多い場合、部下側の責任のこともあるが、まずは「今、自分が管理している職場は、話しかけやすいか」を振り返ってみると良いだろう。
日常的な会話が積み重なると「いつもと違う様子」に気づきやすくなる。表情や口数、会話のトーンの変化などは、日頃の状態を知っているからこそ違和感として認識しやすい。
例えば部下に対して「少し疲れているように見える」「発言が減っている」などと感じた場合、心身ともに変化が起きている可能性が高いと判断できる。後述で詳しく述べていく。
上司から継続的に声をかけられている部下は「自分のことを見てくれている」と感じやすい。信頼関係の形成に影響を与えやすくなる。
信頼関係があると、部下は本音を話しやすくなり、上司も適切なフィードバックやサポートを提供しやすい。結果、組織全体のパフォーマンス向上につながっていく。
日常のコミュニケーションを充実させるために、特別なイベントや大きな施策が必要なわけではない。日々の小さな行動を意識して続けていくことが大切だ。行動例は次の通りだ。
まず、1日1回以上は自分から部下に声をかけることが大切だ。「昨日の業務はどうだったか」「今の業務量に無理はないか」など、簡単な確認だけでも十分だろう。また、プライベートに踏み込みすぎない範囲で雑談を交えるのも一つの方法だ。
日常的な感謝や評価を、できるだけ言葉にして伝えることも重要だ。「この資料、分かりやすかった」「対応してくれて助かった」などの一言が、部下のモチベーションに大きく影響する。
対面で伝える時間が取りにくい場合でも、メールやチャットで一言添えるだけで受け止め方は変わる。「見てくれている」「認めてくれている」と感じられるかどうかが、信頼アップにつながるだろう。
次に、仕事に関するコミュニケーションのポイントを見てみよう。
仕事に関するコミュニケーションでは、指示の出し方が重要だ。指示を出す際に注意したいコミュニケーションのコツは以下の2点だ。
指示された業務が、全体の中でどのような位置づけにあるのかと、達成すべき目標を伝えよう。
全体像の共有では、プロジェクト全体の流れや、他のチームや業務との連携状況を説明することで、部下は仕事の重要性を理解しやすくなる。また、目標の明確化では「良い感じに仕上げて」「なるはやで」など曖昧な表現ではなく、具体的な期日を伝えよう
指示は具体的に伝えたい。曖昧な指示は解釈のズレを生み、期待外れの結果や手戻りにつながる最大のリスクとなるためだ。
認識の齟齬を防ぐために「指示内容を箇条書きにする」「専門用語を使う場合は解説を加える」「完成形のイメージを具体的に提示する」など、工夫すると誤解が生じにくくなるだろう。
次に、ホウレンソウの受け方だ。ホウレンソウを適切にしてもらうことが一番だが、部下の成熟度によってはこちらが求めているレベルまで達していない場合も多い。以下に気をつけて対応しよう。
聞く側の態度や聞く姿勢に気をつけることが前提だ。あたりまえのことだが、PC操作を中断して手を止めて、部下のほうに体と顔を向けて聞く体制をつくると良いだろう。また、相手が話している最中は、途中で口を挟まずに聞こう。
部下が伝え終わったあとは、ひとまず感謝を伝えよう。あなた自身としては「いまいちだな」「もっとわかりやすく話してよ」と思うこともあるかもしれない。しかし、まずは感謝から伝えることが重要だ。伝え終わってほっとしたところで、いきなり指摘や文句をいわれると「次から報告することが怖い」「面倒だからやらなくてよいか」となってしまいがちだ。
感謝を伝えた後は、要約+次の行動の指示を行う。要約は、部下の伝えたことが自身の理解と創意ないかを確認するためのものだ。「つまり、〇〇が△△で困っているということかな?」と要約して問い返すことで、認識のズレがないかをすりあわせることができる。(話を最後まで聞かず「結局Aということでしょ、と要約する方法は避けよう」
次の行動の指示については、この案件が次に続くようならその指示を行い、もし手戻り(もう一度部下に修正してもらう必要がある場合など)は、具体的に何をいつまでにどうしてほしいかを伝えて、実施してもらおう。
ラインケアとは、上司が部下に対してメンタルヘルス不調の予防や早期発見、対応をすることだ。この部分でも、上司からのコミュニケーションが効果を発揮する。具体的には以下の対応をしていくことが望ましいだろう。
ラインケア対応では、「いつもの状態との違い」に目を向けることが重要だ。次のようなサインが見られる場合、メンタル面で負担を感じている可能性がある。
また、残業時間が継続的に増えていたり、これまで見られなかった種類のミスが多くなったりした際も、メンタルに支障をきたしている場合がある。一時的な繁忙による変化なら問題とならない可能性が高いものの、同じ状態が続いている場合は精神的に負荷がかかっている恐れがある。
サインに気づいた後は、「どう声をかけるか」が重要になる。声のかけ方を誤ると、部下がかえって心を閉ざしてしまう可能性がある。ポイントは2つだ。
声をかける際は、原因を追及する姿勢ではなく「あなたのことを気にかけている」というスタンスを明確にした方が良いだろう。例えば「なぜこうなったのか」と問い詰める話し方はプレッシャーになりやすい。
一方「最近残業が続いているようだけど、負担は大丈夫かな」「少し疲れているように見えたけど、体調はどうかな」と、「事実+感じたこと」の順で伝えると安心感が生まれやすくなる。結果、部下と信頼関係を構築しやすい。
どこで・いつ声をかけるかが重要だ。人目のある場所や、会議の直前・直後など慌ただしい場面では、本音を話しづらく、かえって心の負担を強めてしまうこともある。できるだけ静かで落ち着いた場所を選び、短時間でも個別に話せるタイミングを確保した方が良いだろう。
ラインケアを上司一人で抱え込むと、対応しきれなくなる恐れがある。状況によっては、業務調整や専門窓口への橋渡しが必要だ。ポイントは2つある。
メンタル不調が疑われる場合に備え、社内でどのようなサポートが可能かを事前に把握しておくことが重要だ。「産業医面談・人事部門の相談窓口・外部相談機関」など、利用できる制度を把握しておけば、部下に具体的な選択肢を提示しやすくなる。
さらに、管理職自身がマネージャー研修などを継続的に受講しておくことも効果的だ。対応の知識や正しい判断基準を事前に身につけておくことで、対応がスムーズになるだろう。
相談窓口につなぐ際は、本人の了承を得ることが原則だ。本人の同意なく話を進めると、「勝手に共有された」と上司や会社に対して不信感が生まれ、関係性を損なうリスクがある。
「必要なら一緒に相談先を考えてみない」と提案し、本人の意思を尊重しながら支援する姿勢が、ラインケアにおいて重要だ。
管理職やマネージャーに求められるコミュニケーション力は、次の通りだ。
いずれか一つに偏るのではなく、日常の関わり・業務上のやり取り・メンタル面への配慮をバランスよく行っていくことが、部下にとっての「話しかけやすさ」と「働きやすさ」を高め、組織全体のパフォーマンス向上につながる。