一昔前は男性か女性かで区別されるのは当たり前だった。しかし現代において「男性だから~」「女性だから~」という理由で接するのは古い。最近では性においても多様性が出てきている。その時代の中で抑えておくべきワードが「LGBTQ+」だ。
日本ではLGBTQ+の方々が働きやすい環境をつくられており、それは企業にも求められている。本記事ではLGBTQ+の概要を解説しつつ、取り組んでいる最中に起こる課題や、解決方法について紹介する。
LGBTQ+とは、性が多様であることを表している言葉だ。当初はLGBTと呼ばれていたが、しばらくして「Q」が加わった。この言葉は、下記の頭文字をとって付けられている。
最後の「+」は何か特定のセクシュアリティを表している言葉ではない。性は多様であり、LGBTだけでは包括できないため、「これらのほかにもさまざまなセクシュアリティがある」ということを意味するために使われている。
ちなみに電通が2020年12月に行った調査では、回答者のうち約8.9%がLGBTQ+に該当していると答えた(出展:電通ダイバーシティ・ラボ LGBTQ+2020)。
ここではLGBTQ+に該当する社員を受け入れるメリットを紹介する。
LGBTQ+の方を受け入れると、今までにはない視点がチームの中に生まれるかもしれない。独創的なアイデアが誕生するきっかけとなり、生産性の向上も期待できる。
LGBTQ+を受け入れる職場は居心地が良い。それが優秀な人材の流出を防ぐ。人材の流出が起こると社内業務の質が低下し、業績悪化へつながる恐れがある。
LGBTQ+の文化は、世界的に注目されている。そのため、LGBTQ+の方を受け入れる企業として世の中に認知されれば、イメージアップにつながる。企業のイメージが良くなれば、新規顧客や取引先の増加が期待できるだろう。
世界的にLGBTQ+に該当する方を受け入れる流れになっているものの、課題も存在する。ここでは、どのような課題があるか解説する。
LGBTQ+に該当する社員がいない前提の職場だと、LGBTQ+に該当する社員は居心地が悪く感じる。すると自分の能力を発揮できなかったり、コミュニケーションを上手く取れなかったりする状況が起きてしまう。そのためLGBTQ+に該当する社員にとっては、働きづらい職場になる。
LGBTQ+が理由で出世できない企業も存在する。たとえ成果を挙げていたとしても、LGBTQ+に該当することが理由で、出世のチャンスが訪れない。それに伴い、給料も上がりづらいと言える。
社内で差別発言を受けてしまう問題もある。「近づいてほしくない」「気持ち悪い」など、罵詈雑言を浴びてしまう。その結果、人間関係がこじれてしまい、職場での居場所を失うことになる。
LGBTQ+であることをカミングアウトできないのも課題だ。相手に拒否されるのが怖くて、伝えられないケースが多い。
人によってはカミングアウトできないと、ストレスが溜まる。その結果、心身ともに滅入ってしまう。
LGBTQ+に関する課題は、方法を使い分ければ解決できる。ここでは、前述で紹介した課題1~4の解決方法を紹介する。
課題1を解決するには、以下のことを実践すると良い。
職場全体でLGBTQ+が存在することを認識する習慣をつけると良い。LGBTQ+に該当しない社員にも伝われば、取り組むのが楽になる。なおLGBTQ+の認識を高めるときは、以下のことを実践すると良い。
官公庁やLGBTQ+の関係団体から資料を取り寄せるといいだろう。社員へ定期的に配布すれば、LGBTQ+の文字が目に入る機会が増える。それが認知度の向上につながっていく。
セミナーや研修を受講させるのも効果的だ。外部研修だけではなく社内での研修も可能だ。ただし、ひと口にLGBTQ+の研修と言っても様々な内容があるため、目的に合わせてカリキュラムを決めた方が良い。
企業として、LGBTQ+の取り組みに参加するのもいいだろう。シンポジウムやパレードなどがある。参加すればLGBTQ+の方の気持ちが分かり、自分事として捉える社員が増えていく。その結果、LGBTQ+の社員が在籍する前提の職場づくりを行うのが楽になる。
LGBTQ+がいる前提で、コミュニケーションをとる文化をつくることも大事だ。それを実現させるには、以下のことを周知すると良い。
どの社員に対しても、人格やアイデンティティの否定を行ってはいけない。LGBTQ+を受け入れる雰囲気をつくるために大事だ。
自分の価値観が全てだと思わず、他の価値観を受け入れる習慣をつくることも大事だ。社内にこの雰囲気ができれば、仮に相手がLGBTQ+に該当しても、違和感を抱えることなく話せる。
それが日常的になれば、LGBTQ+に該当する社員がいることを前提とした、コミュニケーションがとれやすくなる。
課題2の解決方法は以下の通りだ。
成果の有無で評価すれば公平性が生まれるため、LGBTQ+の社員が出世しやすい状況ができる。一定の評価基準を設けたり、スコア化する習慣をつくったりすると、公平な評価がしやすくなるだろう。
「LGBTQ+の社員を管理職にしてはいけない」「出世できるのは男性社員のみ」と言った内容を刷り込んでいる状態で、評価するケースも多い。
基本的に人間は、自分の価値観や思い込みが刷り込まれた状態で行動してしまう。その状況を回避するためにも、性別に関するバイアスがないか意識することは大事だ。
課題3の解決方法は以下の通りだ。
社内での差別発言を禁止すると、LGBTQ+の社員に対する差別発言は減る。ただし口頭で注意するだけでは不十分だ。注意をしても、言うことを聞かない社員がいるからだ。
社員から反発されないためには、差別発言の禁止を明文化しておくといい。たとえば社内マニュアルに明記しておけばルールである以上、注意されても文句は言えない。このように、社員達が差別発言できない仕組みをつくることが大事だ。
LGBTQ+に該当する社員の中には、該当しない社員と同じように接してほしい場合もある。そのため、LGBTQ+だと決めつけないことも大事だ。この文化が根付けば、他の社員と同じように接することができて、差別発言が出づらい職場になる。
課題4の解決方法は以下の通りだ。
相談しやすい環境をつくればカミングアウトしやすくなる。社員同士で普段からコミュニケーションをとったり、信頼関係を築いたりすれば相談しやすいだろう。なお、相談方法には様々な形式がある。社員によって使い分けるといい。
定期的に面談する機会を設けておけば、自分から相談できない社員でも、強制的に話すタイミングができる。そのため、自然と相談しやすい環境になっていく。
ただし相性の悪い上司と面談させると、カミングアウトしづらくなる。そのため、信頼関係を築けている上司と面談させることが大事だ。
同じ部署の社員に言えない場合もある。そのときは、他部署の社員に相談させるのも手だ。人事部や総務部が相談窓口になっていることが多い。企業によっては、外部の専門家に来てもらう場合もある。
そもそも社員に相談するのが嫌な場合は、外部の相談窓口を紹介しても良い。全国各地に設置されている「総合労働相談コーナー」や「よりそいホットライン」など、様々な相談先がある。
アウティングとは、LGBTQ+であることを周囲に言いふらす行為のことだ。アウティングによって、LGBTQ+に該当する方が命を絶った事件も起こっている。そのため、アウティング禁止が当たり前であることは、社内に周知すべきだ。こちらも社内マニュアルに明文化して、ルールとして運用した方が良い。
「自分からLGBTQ+に該当することを言ったらどう」「他の社員にも伝えた方が楽だよ」と言うように、カミングアウトさせようとするのも良くない。他人から勧めらて、言えなくなるケースも存在する。したがって、周囲の人間がカミングアウトを進めるべきではない。
LGBTQ+に取り組んでいる企業も存在する。最後に実例を紹介する。
アクセンチュアでは、LGBTQ+であっても平等に働ける環境をつくっている。LGBTQ+に該当する社員であっても、他の社員と同様に保障することを誓っており、LGBTQ+に関する理念も作成している。
さらに国内外のイベントに参加したり、LGBTQ+の理念を広めたりなど、社会的意義のある行動をとっているのも特徴だ。
日本航空では2019年にLGBTQ+チャーターの運行をするなど、LGBTQ+を世の中に広めるための社会貢献活動を行ってきた。
また社内においても、会社の基準を満たした同性のパートナー登録をした社員に対して、異性と結婚した社員と同じ制度が適用される状態をつくるなど、LGBTQ+に該当する社員が在籍したいと思う環境を整えている。
ユニリーバ・ジャパンでは、LGBTQ+に関する支援プログラム(ユニリーバ・プライド・ジャパン)を用意しており、社内制度の変更や採用の推進、社外でのイベント参加など、様々な取り組みを行ってきた。これによって、LGBTQ+に該当する社員が働きやすい状況をつくり出した。
LGBTQ+の文化は世界中で広がっており、国内でも政府や自治体が様々な取り組みを行っている。国内企業においても求められているため、LGBTQ+の取り組みは行うべきだ。LGBTQ+に該当する社員の受け入れ態勢ができれば、職場の中に多様性が生まれたり、企業のイメージアップにつながったりする可能性がある。そのため、様々な社員を巻き込んで取り組むべきだ。
とは言っても企業の中には課題に悩まされており、LGBTQ+の取り組みが順調に進まないケースもある。
-課題1.LGBTQ+に該当する社員がいない前提の職場になっている
-課題2. LGBTQ+が理由で出世できない
-課題3.差別発言を受けてしまう
-課題4.LGBTQ+であることをカミングアウトできない
課題を抱えるとLGBTQ+に順応できる組織になるまで、時間がかかってしまう。それを失くすには、課題に適した解決方法を見つけることが大事だ。たとえば、以下の解決方法がある。
-課題1.「LGBTQ+に該当する社員がいない前提の職場になっている」の解決方法
-職場全体でLGBTQ+の認識や知見を深める
-企業としてLGBTQ+に関する取り組みに参加する
-LGBTQ+に該当する社員が、どこかにいる前提でコミュニケーションをとる
-課題2.「LGBTQ+が理由で出世できない」の解決方法
-成果の有無で評価する
-性別に関するバイアスがないか意識しながら評価する
-課題3.「差別発言を受けてしまう」の解決方法
-差別発言を禁止する
-LGBTQ+だと決めつけない
-課題4.「LGBTQ+であることをカミングアウトできない」の解決方法
-相談しやすい環境をつくる
-アウティングの禁止が当たり前であることを伝える
-強引にカミングアウトさせようとしない
テーマごとに適切な解決方法を実践すれば、課題を解決しやすい。今後もLGBTQ+の文化は根付いていくため、組織として柔軟な対応が求められる。それを実現させるためにも、LGBTQ+関連の取り組みに力を入れていただきたいと思う。