インバスケットという言葉を聞いたことがあるだろうか? インバスケットとは、まだ決裁がされていない書類が入った「未処理箱」のことである。一般的にビジネスで用いられる場合は、架空の人物となり、制限時間内にできるだけ多くの案件を処理するワークのことを指す。ここではその活用方法を紹介していく。
インバスケットとは、バーチャルの人物になりきり、制限時間を決めて正しく処理することを目標とするワークのことで、一般的にビジネス研修によく使われている。
もともとインバスケット(未処理箱)に入っている案件を処理していく、という意味でつけられたといわれており、ビジネスでの活用は、一流企業などで管理者、リーダーの教育として使われるようになったのが始まりだ。近年では、行政機関、官公庁や中小企業でも、教育・研修のために行われている。
インバスケットの特徴をここで見ていこう。
1.制限時間内にバーチャルな出来事をどう処理すべきかを問う。
2.どの職場でも起こりえる案件を迅速に、かつ正確に行う目的がある。
3.絶対的な正解はない。
インバスケットは結果よりも、“判断に至るまでの経緯(プロセス)”を測定しているのである。経緯(プロセス)のどの部分を改善すれば良いのか、改善につなげる糸口を見ているのだ。
インバスケットの中で見られる思考をインバスケット思考という。与えられた時間内にタスクを的確に、高い精度でこなそうとする思考法のことを指す。
インバスケット思考では、2つ重要な指標がある。インバスケットを行う上でその点を注意していきたい。
複数のタスクが並行する場合、適切にまた迅速に処理するためには優先順位をつける必要がある。その際、緊急性と重要性のバランスで考えることがポイントだ。
インバスケットは「どういった結果を出したか」ではなく「どのようにして導いたか」のプロセスを重要視としているため、完璧な正解ではなく、結果につながるより良いプロセスを第一に考える必要がある。
例えば、以下のような案件が同時に重なった場合はどう処理するかを考えてみよう。
1.新規案件の見積もりの依頼の確認
2.顧客からの苦情の連絡対応
3.1時間後に迫った商談書類の最終確認
まず、優先順位を分ける必要がある。緊急性が高く重要なのは「顧客からの苦情の連絡対応」だろう。まず顧客対応が先、次に書類の最終確認、最後は新規案件として処理をするプロセスの測定だ。
インバスケット思考のメリットを下記に4点あげてみた。
1.優先順位選択スキルが磨ける
2.効率化を図ることができる
3.物事を広くとらえることができる
4.自分でやらなければ、という意識づけができる
確かに課題に取り組むためには自分自身で考え、順位をつけ、処理を効率的にこなさなければならないが、実際の仕事でもまさに同じようなことが起こるのが通常だ。そのため、インバスケット思考を幅広く身に着けることは、社員の成長につながることとなる。
インバスケットのトレーニングをすることで、得られる4つの効果を見てみよう。
限られた時間の中で未処理案件を、的確に処理するには「どのようなことを優先的にするか」という判断から始めなければならない。優先順位設定の考え方はどのようにするのか、絶対的な正解がないというのもインバスケットの特徴であるため様々な要素のプロセスを測定する。繰り返し研修を行うことで、スピーディな優先順位判断も可能になるはずだ。優先順位は、緊急性と重要性のバランスで考える。研修の目的とゴールを具体的に設定して実施することがポイントだ。
目の前で起きている問題の対処だけではなく、同じことが起きないよう再発防止的な解決も求められる。問題発見→情報収集→対策方法(いくつかを想定)→関連性確認→意思決定といったプロセスを繰り返していくことでスキルが磨かれる。
個々の案件だけではなく、解決しなければならない問題の全体の流れや複数の案件との関連性などを把握し明確な計画や解決手段を作成したりできる能力が向上する。オフィスの業務とは外部・内部環境を含めて、総合的に調整解決する能力が大事になってくる。
先の3つの能力を意識して研修やトレーニングを行うことで判断力に自信をつけることができる。実際の仕事へ反映されていくので現場で、迷わず効率的に処理できるのもインバスケットの研修の魅力の一つだ。
インバスケットをすることで行動の変革・改善が行え、幅広い可能性を企業にもたらすこともできるだろう。自らの弱点に気付くことができ、効果的に行動することができるようになることは企業の組織力を上げることにつながる。また、生産性や主体性を獲得するのに有効なワークといえるため、経験値やファシリテーションが重要な判断材料となる。組織の生産性を高めることや、社員の主体性を高めることが期待できるだろう。
組織力をさらに細かく見ていくと次のような力を養うことにもなる。
部下や組織を有効に活用し、効率的・効果的に組織を運用する能力が身につく。
限られた時間の中で、効率的に多くの案件を、処理する能力が身につく。
コミュニケーション能力などの人間関係に関する能力が身につく。
業務の重要度を考慮して、処理すべき案件の優先順位決定力が素早く判断できる組織になる。
様々な情報を組み合わせた対策・アイデアを出しやすくする組織になる。
自ら意思決定を行い、自分、またはチームでどう動けばいいかを察知する組織やチームになる。
インバスケットでは、当事者意識を持つことが大切である。つまり、架空の人物になりきるということ。もしかしたら、トレーニングの目線は、今の立場と違うこともあるかもしれない。しかし身分が想定でしか分からない中でも、できるだけ現実的なシチュエーションを設定し、解決策を探ることが組織力の向上につながっていくのだ。
インバスケット思考は試験としても使える。どういったものがあるのか見ていこう。
受験者が、案件処理の判断・行動を回答するもの。 自由に回答を記入するのが基本。また例題に沿って、メール文を作る場合もある。文章での表現力やコミュニケーション能も判断されることが多い。
現在就いている職種や職位の設定とは異なるシチュエーションが用意されていることが多い場面シーンの対応法でのトレーニング。ある特定の受験者に優位になることを避けるため、まったく異なるシチュエーションでどう対処するかというものだ。
大きく2つのポイントを下記に紹介しよう。
計画的に案件処理を進めるためにも時間配分の徹底が大切になってくる。トレーニングによっては、資料を見ながら答えたりするものも多くあるので案件と照らし合わせて使用すると、時間が意外とかかったりする。ポイントを箇条書きにし、資料内容をまとめておくなどトレーニングの中で意識、工夫することが必要になる。
求められている関連案件が全く違う答えになってしまったり、聞かれている案件が複雑に思えてしまってはプロセスも組み立てられなくなる。総合的に解決する能力をつけるため多くのパターンをこなしてみること。
後に重要な案件が隠れていたり、関連している案件が出てくる文面もあるので注意する。「重要度」と「緊急度」を軸に優先順位をつけて取り組む基本は変わらない。
研修の成果は参加者の能力と参加意欲に大きくかかわる。インバスケットは、参加者主体になって行う研修である。そのため、参加者の能力や参加意欲がなければ効果がなく、あらかじめ研修に参加する目的や研修で得たいことなどを参加者に具体的に考えてもらい、明確に取り組むための動機を引き出しておくようにすることが大事になってくる。
インバスケットとはどんなものなのか、どんな準備で行えばいいかが理解していただけただろうか。人によって強化すべきポイントや企業として補強したいポイントがあるだろう。必要な効果を得るために、繰り返しトレーニングすることが重要となる。なにより、参加者が意欲的に行うことができる研修を心掛けなければ何のメリットも生まれてこないので、興味を持たせて主体性を持たせてインバスケットを行うことが必要なのだ。