理不尽な要求で対応者に多くの負担を強いる、「ハードクレーム」と呼ばれるものが増えている。通常クレームとの違いを見極めることが難しく、対応を誤ると問題が深刻化するため注意が必要だ。
今回の記事は、接客や電話対応に従事している人向けに、通常クレームとの違いやハードクレーム対応のポイントを紹介したい。
目次
ハードクレームとは不当なクレームのことだ。詳しく理解するため、まずクレームが発生する背景を確認しておこう。
「クレーム」とは、顧客から企業への不満をともなう要求だ。
購入した商品やサービスに問題があった場合、企業側に伝えて解決を望むのは顧客の正当な行為といえる。商品不良・説明不足・納期遅延・劣悪な接客など、提供側の明らかな過失はクレームの対象となる。顧客から企業への正当なクレームは、品質向上やサービス改善のきっかけとなることも多い。
ハードクレームとは、支払った対価以上のものを要求する不当なクレームだ。
暴力や破壊などの犯罪行為はもちろんのこと、「法外な要求」や「業務妨害」などの迷惑行為がハードクレームといえる。
クレームの中でも不当な行為を含むものはハードクレームといえるだろう
近年は、要求の内容が異常なハードクレームが増加している。
企業は常に顧客ファーストの姿勢が求められてきた。それゆえに顧客の立場を悪用するケースがあるようだ。思い通りにならない社会的ストレスや、ネガティブな感情をスタッフにぶつけて発散している可能性も否めない。通常クレームがハードクレームに発展してしまうこともあるため、対応者のスキルアップが急がれるところだ。
一般的なクレームは「困りごとの解決」を目的としている。対してハードクレームは目的が異なるようだ。状況次第で対応法は変化するため、例を用いて違いを確認しておこう。
顧客の困りごとを解決してほしいという要求を越えてエスカレートするものはハードクレームといえるだろう。
クレームのほとんどは、顧客が納得できる適切な対応によって収束へ向かう。しかし適切に対応したにもかかわらず、「慰謝料を払え」「上司を出せ」など要求が肥大していくケースがある。通常の対応法では収まらず要求がエスカレートするかどうかが、ハードクレームの特徴だ。
ハードクレームは故意に「相手を困らせてやろう」という、いやがらせの要素を含むことがある。
店員が困っていのを楽しいと思う心理や、自己顕示欲を満たすことを目的としているからだろう。根拠のない「いちゃもん」「難癖」や、「しつこくミスを責める」などで営業妨害をされることも多い。いつまで対応者を困らせてやろうとする故意のいやがらせは、ハードクレー厶と考えられる。
ハードクレームの中には、購入商品とは全く関係のないことに苦情を訴える特殊なものもある。
解決を積極的に求めていないため対応を終わらせるのが難しく、非常に厄介なハードクレームといえる。「延々と説教を続ける」「担当者との親密性を要求する」など、病的な要因でやっているケースも否めない。悪意はないが、目的がよくわからない苦情を執拗に繰り返すものは特殊なハードクレームといえるだろう。
対応方法は共通しているが、特にハードクレームが起きやすい現場でのハードクレーム事例を紹介したい。
店舗における接客スタッフはハードクレームの被害にあいやすい。
商品やサービスの受け渡しを多く行う分、対応の不手際やコミュニケーショントラブルを対面で指摘される機会が多いからだ。女性店員が、仕事に対するクレームを名目に男性客からつきまとわれる「クレームストーカー」の被害が増加している。ハードクレームが深刻化している現状を踏まえると、従来の「すべてのお客様は神様」という考えは見直すべきかもしれない。
顧客の「顔が見えない」という性質上、コールセンターでのハードクレームは発生しやすい。匿名性があり、場所や時間にとらわれずいつでもクレームの電話をかけられるという利便性もあるからだろう。
いずれもハードクレーム対応に切り替えるべき案件だ。明らかに不当な内容のものは「対応いたしかねます」と、毅然とした態度で電話を切ることも選択肢のひとつだ。
度を超えた謝罪や対価を要求するハードクレームは、民間企業だけではなく行政機関の現場でも増加している。
世の中のルールやしくみが大きく変わることへの不安や不満を、行政職員に八つ当たりするクレーマーもいるようだ。「税金を下げろ」という要求を通すために一日中居座る。気に入らない職員の氏名などをインターネットで公表し誹謗中傷する。いずれも身勝手な要望をエスカレートさせた事例だ。親身な対応は悪用される場合も多い。一職員として「できること」「できないこと」を明確に伝える必要があるだろう。
ハードクレームは通常のクレーム対応では解決しないことも多い。そのため、実践的なハードクレーム対応ポイントを5つ紹介したい。
攻撃的なハードクレームに対応する場合は、感情が落ち着くまで待つ必要がある。常軌を逸したクレームを主張する人は感情が高ぶり、まともなコミュニケーションが取れないことがあるからだ。自身の常識を一方的に押し付け激高している相手は、対応者のやることなすことすべてを批判してくる。どんなに緊迫した状況であっても相手の言い分をしっかり受け止め感情が落ち着くタイミング見計うことが賢明だ。
クッション言葉とは「恐れ入りますが」など、話しかける衝撃を和らげたりする効果があるフレーズのことだ。あとに続く説明の聞こえ方がマイルドになるため、興奮状態の相手に鎮静効果がある。
「差し支えなければもう一度詳しくお聞かせ願えませんでしょうか」などで、冷静な対話がしやすい。「何度もお手数で申し訳ありませんが」など、謝罪を交えたクッション言葉もハードクレームに有効だ。
ハードクレームに遭遇した場合は、落ち着いて主張の矛盾点を探す必要がある。ハードククレーマーは虚偽や不正をあたかも真実のように主張する詭弁を使うことがあるからだ。
論点のすり替えや巧みな言い回しで、対応者が納得せざるを得ない状態にさせられる巧妙なケースもある。必要以上の謝罪や不要な対応を行わないためにも、矛盾点がないかしっかり確認しながら対応したい。
ハードクレーム発生時はあえて対応の時間や場所タイミングをずらすという方法もある。相手のペースに乗せられないという効果や、落ち着いてやりとりを記録するための準備ができるからだ。
「言った・言わない」の水かけ論を防ぐためにも、メモ・録音・録画などで法的証拠を残すようにしたい。他の顧客の保護にもなるため、ハードクレーム専用に特別な場所と時間を設けることも一案だ。
ハードクレーム専用の相談窓口を準備しておき、有事の場合活用するという方法もある。要求が「常識の範囲内」にあることを客観的に判断することや、複雑な案件を素早く的確に処理するためだ。
社内の担当者・消費者センター・弁護士・クレーム対応専門業者など複数の相談窓口を準備しておきたい。ハードクレーム対応の責任や労力を分散させるためにも、複数で対応する体制を組織的に整えておくべきだ。
ハードクレーム対応には精神的な強さと通常クレームとの見極めが必要だ。そのためある程度の対応経験が不可欠といえる。しかしより効率的で迅速なスキル習得を目指す場合は、以下の方法をおすすめしたい。
レジリエンス(resilience)とは、困難にぶつかっても乗り越える力だ。
「精神的回復力」と定義されており、難しい状況に物怖じしないスキルといえるだろう。レジリエンスは、ものごとの捉え方を変える・自分の強みを把握するなどの思考パターントレーニングで鍛えられる。レジリエンスを高めることができればハードクレームに冷静に対応できるスキルを養うことにつながる。
ハードクレーム対応は、まず通常のクレーム対応スキルを身に付ける必要がある。通常のクレームの範囲に収まらない場合にはじめてハードクレーム対応法に切り替える必要があるからだ。
通常のクレーム対応は「クレーム対応研修」で学ぶことができる。他業種のクレーム事例も学べるため、柔軟な対応力を養うには良い機会だ。「謝罪」「傾聴」「解決策提案」など、基本的なクレーム対応スキルを見直すだけでもハードクレームの発生は軽減される。
ハードクレーム対応に必要なスキルはどうしても実践で学ぶのが難しい。最近のハードクレームは巧妙で複雑化しており、多種多様なケースを検証するデータが現場だけでは取得できないからだ。
その点ハードクレーム対応研修では、最新ノウハウを実践的なアプローチで身に付けることができる。
通常クレームの延長線上と思いがちだが、一般的なクレームとの違いを論理的に理解できることもメリットだ。
クレーム自体は問題ではなく、企業の業務改善や新たな商品・サービス開発に繋がる貴重な情報だ。しかしハードクレームは「不当な要求」を目的としているため、通常クレームとは異なる方法で処理する必要がある。
ハードクレーム対応のポイント5選
ハードクレームは近年のビジネス環境において避けられない問題の一つだ。そのためハードクレームに特化したスキルを身に付ける必要があるようだ。